「ジプシー」と呼ばれたロマ

エジプト人=エジプシャンが転じた「ジプシー」という呼び名は、日本ではポピュラーであるが、その名称は蔑称として意味づけられたことが強いので、現在では公式にはその彼らは「ロマ」と名指す。その人々は、インド北西部パンジャブ地方起源地として、8〜12世紀にかけて西へ移動し、ビザンチン帝国首都コンスタンチノーブルをへて、バルカン半島北上しヨーロッパ全土に移民してきたという。ロマの語源はロマ語の「ロム(Rom)」で、「一人の人間」の意味を持つ。しかし「人権第一」を普遍的価値としてる筈のヨーロッパに住む彼らは、長らく「一人の人間」として権利を獲得してるとはいえないし、「先進国」を自負するヨーロッパ人達からも、自分たちと同等の「一人の人間」としてロマは認知されていないようだ。知識人を自負する社会派エリートさんたちの人権に関する書物にも、ロマに触れているものがほとんど見当たらない。
旧東ヨーロッパ諸国で600万、ルーマニア250万、ハンガリーブルガリア80万づつ、セルビア・モンテネグロ60万、スロヴァキア52万、スロヴァニア1万、総数約800万人とロマの人口は推定されているが、今なお差別を恐れて自身を「ロマ」と申告しない傾向が強いという。放浪の末にロマ語も各国語と共有混合して使われており、言語として単独に使用されている訳ではない。
今日でも、ユーゴスラビアでは60歳以上の識字率50%未満であり、西側オーストリアでも小学校卒業率50%程度だという。これは、彼らの民族文化と西欧普遍文化との齟齬と、そこからくる激しい差別が関係しているという。家族主義で問題の処理や解決を集団で行い、子育ては不干渉の放任主義である民族慣習・規範に対して、個人の自立を最大の目標として、個々人の業績や自由競争を重視する学校・社会とでの折り合わせがつかず、しばしば対立してしまう為である。
プレゼンスを示すことこそ一人前の人間たりうると考える社会で、そんな彼らは「人目と引かないことと匿名性が最良の「護身術」である」と、社会参画からずっと身を潜めてヨーロッパ各国で下部構造の周縁民として暮らしてきた。