朝生の貧困政治討論

朝まで生テレビ「新しい貧困」を取り上げた。ここで問題とされている「新しい貧困」とは、どうやら年収200万円程度の若年層(30代未満)を示す模様。
全体の新卒求人パイが、10年前の約半分になっていることと、従業員30人未満の中小企業の割合は全体の70%で、そこの正社員平均年収が200万円台(一部上場企業は500万円台)であること、貧困支援パネラーから何度も示される。
新卒求人の減少(+派遣労働者への変換)は、グローバリゼイションによる人件費抑制等のリストラ経営体質改善の余波であることが政府・経営サイドから説明される。それに対しては、工場に於ける期間工派遣労働の著しい逸脱例などが労働告発されているトヨタ等が高い利益率を上げ続け、株主への高い配当率の割に、労働者への還元がないことを指摘。
雇用対策として、自民党世耕弘成は「ジョブカード」を活用した雇用案*1を推し、民主党山井和則は「(登録型)日雇い派遣禁止」法案*2を推す*3。この2政党議員からは出てこなかった最低賃金を1000円=年収200万円確保にする案は、地方企業の死活問題を招くと、堀紘一奥谷禮子らの企業側は渋る。そこに田原が「財源」問題を持ち出し、民主党ダケに消費税増税を明確にしろとせまる。連合(=民主党)は若者&非正規を踏み台にして、団塊世代の雇用権利を頑強にしたんだという一方、貧困当事者として観客席にいる若者に対して「なんで、落ちこぼれたのか?」と煽る始末。団塊世代として観客席にいたオヤジも「若者はガッツがない」と説教。勝ち組のくせにと最後に言われてた森永卓郎も、貧困者への具体策ではなく「新自由主義(=小泉政権)が…」と貧困原因を抽象化して大議論にひろげようとする。
と、まぁ田原総一郎の関心は結局、自民vs(民社的)民主っつー政局討論で、そちらにひっぱっていった。わかってはいたが、なんだかなぁソレ、はぁ。。。

雇用環境と労働教育政策の貧困

大卒&大学院卒な高学歴てんこもりな方々とて、労働(&コミュニケーション)スキルのなさが就職阻害というならば(日本版ニート)、やることはジョブカードでなくって、容易にスキルをつける場を用意することだろう。大学院にいかない成人後の教育は、企業まかせで政府は知らん顔というのがそもそもおかしい。id:hizzz:20061219#p4でかいたとおり学校でも企業でもスキル習得機会を逃した者には、社会で随時スキルアップする機会がなければ、当人の意欲がいくらあっても、躍進する社会から取り残されるということに陥る。職業訓練校はそもそも雇用保険需給資格者が対象であるから、最低でも1年間継続雇用されていないとダメだし、年度ごと(多くても半年ごと)の募集ゆえ、タイミングが合わないと受講できない。なによりも、求職ニーズに沿う訓練メニューが提供されているとは限らない。
だがしかし、スキルを付けジョブカードがいくら適正活用されたところで、せいぜい求職と雇用職ミスマッチがいくらか解消される程度であろう。ミスマッチ採用で「3年以内にやめる若者」を幾らか減らしたところで、人件費が拡大し50%に減った正社員雇用枠が増大するハズがない。そこで「(登録型)日雇い派遣禁止」を打ち出せば、正社員雇用ははたして拡大するのか?
ワタクシ考えるに、限りなくバイト的給与な正社員か、専門子会社からの出向扱いの契約社員か、社会保険適用に達しない短期バイトが増えるだけだろう。ネットやメールで届く求人情報に数種気軽に応募・取消でき、職歴や学歴を問われない派遣の仕組みは、求職者にとって求職機会の拡大であり、便利であったことはまちがいない。しかしその目先の便利と引き換えにしたものは、大きかったのであるが。たしかに「日雇い派遣」の現状は醜い。だから廃止としてしまうと、現在「日雇い派遣」で糧を得ている者はどうなるのであろうか。特にコミュニケーションスキルに難がある者や、外国人、定住所を持たないネカフェ難民を含む彼らの全てが程よい直接雇用にありつけられるとは、到底思えない。さらなる選別化に分断されるのではないか。であるなら、間接雇用全面禁止ではなく、一定保障の上での運用をめざすべきでないだろうか。
要は、雇用パイの拡大=経済政策と、労働環境・保障整備=労働政策と、労働スキル取得機会確保=教育政策の3つが同時に回らないと、当事者にとってハナシは始まらないということだ。

社会保障の貧困

雨宮処凛が「親が死んだら餓死するしかない」*1というと、田原は「自分達は親を食べさせる為に働いた」という。その親を食べさせる為に働いた年功序列右肩あがりの恩恵を受ける最後の世代が育てた子供が、就職氷河期ではじかれてる始末。団塊世代団塊ジュニアの分配不均等という側面はたしかにあるので、その意味でも「新しい貧困」ではある。
若者を「ガッツがない」だの「スキルがない」だのと断罪するのは勝手だが、スキルも保護も与えないままトコロテン式に社会に放りだしてきたツケが、現在の消費の非活性につながる。年収200万円では、税金はおろか健康保険・年金もまともには払えないのに、今年に入って次々と生活物価は上がる一方。
が、しかし、生活保護行政からも無視されて「餓死」「路上死」しているのは若年層ではなく、厚労省失業者統計外におかれっぱなしの中高年=「古い貧困」層である。いくらスキルやガッツがあったとしても、一旦終身雇用ルートからはずれた事務職中高年サラリーマンの多くは、その年齢で求職市場からはシャットアウト身分なのだよ、「勝ち組」御同輩。id:hizzz:20070926#p2で書いたが、求職機会が一番多そうな東京でのネカフェ難民の年齢は、35歳以上が最多層であることが厚労省調査で判明している。>http://www.mhlw.go.jp/houdou/2007/08/h0828-1.html
さらに政府は、収入も就職機会も殆どなく扶養家族となっていた者にも例外なく支払義務を負わせた「後期高齢者医療制度」など、目先の取りやすいところから取るを優先して、貧困の追い打ちをかける*2後期高齢者の次は、パート労働者。
年収200万円台では結婚も子供も育てられないという声があるが、女性正社員の平均賃金は、小泉政権とかグローバリゼイションとかのはるか以前からずーーーーーーーーーーーーーーーっとそのラインなんだけど、男女格差には無視しまくり。女は婚姻して扶養家族になってる場合が多いからっていわんがばかりのその理由づけと共に草刈り場となる、女性が大半のパート労働。厚生年金の適用基準を見直してパートタイマーに拡大し「週労働時間20時間以上、又は年収65万円以上」を基準ラインにしようとしている。今のところ年金だけが議論されてるが、いずれ健康保険にも適用されるであろう。
世帯から個人へという流れはそれなりに理解できるのであるが、では、元々個人のものであるハズの雇用保険の適応が、非正規雇用で進んでいないは、労働基準局の勧告もあまりないまま放置状態なのは片手落ち、ご都合主義といえる。大きな労働者権利である雇用保険の失業手当は、短期雇用の場合6ケ月労働実績あれば適用されていたが、去年10月に解雇でないかぎり1年労働実績を満たすように改訂実施されている。id:hizzz:20070218#p3 以前にも書いたが、ダブルワーク問題と共にいずれもこうした保険が雇用主と保険事務所間でシステム完結して、セーフティネットとして労働当事者当人を第一主体に考えられてないのだが、数多ある大小いずれの労働組合もこれに対して問題にしてないのが思議なんだが、それは何故なんであろうね。*3
低支持率にあえいでいるハズの政府は、国のセーフティネットだよりな低〜無収入な人々を、殊更に反政府派にしようとやっきになっているとしか思えない。



※参考
企業における若年層の募集・採用に関する実態調査 独)労働政策研究・研修機構
http://www.jil.go.jp/institute/research/2008/043.htm
「新規学卒者枠」での正社員募集82.9%、内約4割(39.4%)が既卒者含む。選考重視項目は「熱意・意欲」「コミュニケーション」。「中途採用者枠」募集理由は「即戦力」で選考の重視項目「実務経験」。
住居喪失不安定就労者」の相談支援窓口を開設 厚労省
http://www-bm.mhlw.go.jp/houdou/2008/04/h0415-1.html

労働に関するCSR推進研究会報告書 厚労省
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2008/03/dl/s0331-6a.pdf
最低労働条件の遵守や高齢者・障害者の雇用で企業が果たすべき社会的責任を意味する「労働CSR」に取り組んだ成果。約3割企業「特にない」成果の実感に至らないケースも少なくない。
「働く女性の実情」(女性労働白書) 厚労省
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2008/03/h0328-1.html
女性正規職員割合は1985年67.9%→97年58.2%→07年46.5%と減少する一方、パートが最も増加し41.7%。女性月額給与平均24万1,700円、男性の64.9%。
「企業が仕事と生活の調和に取り組むメリット」に関する報告書 男女共同参画会議専門調査会
http://www.gender.go.jp/danjo-kaigi/wlb/index-wlb200409.html
成長力強化への早期実施策 政府・経済対策閣僚会議
http://www.kantei.go.jp/jp/hukudaphoto/2008/04/04keizai.html
中小企業の体質強化、各産業の体質強化、雇用の改善、地域活性化、安全・安心の確保及び低炭素社会への転換――の5点柱
ジョブ・カード推進協議会 内閣府
http://www.jil.go.jp/kokunai/mm/siryo/20080402/siryo03-4.pdf
キヤノン松下電器産業が先行実施への参加表明
「日本の活性化と競争力強化に向けて―世界に開かれた日本の創造のために」 経済同友会
http://www.doyukai.or.jp/policyproposals/articles/2007/080327a.html
外国人労働者と単純労働者の積極的な受け入れを提唱
労働市場改革−リアリティーのある改革に向けて」 経団連21世紀政策研究所
http://www.21ppi.org/pdf/thesis/080321.pdf
労働法制の見直しや企業の人事制度改革に関する考え方。成果主義人事は明確な成果に結びつかなかったと分析。
「世帯タイプ別にみた物価上昇の影響」 日本総合研究所
http://www.jri.co.jp/thinktank/research/eye/2008/0410.pdf
ガソリンや食品などの値上げによる月あたりの負担増加額は、4人家族世帯月4,795円、高齢夫婦世帯3,201円、34歳未満の単身世帯(年収約350万円)1,013円の負担増だと試算。
反貧困ネットワーク
http://www.k5.dion.ne.jp/~hinky/

*1:こういうライフスタイル感を最初にいいだいたのは、雨宮処凛でも赤木智弘でもなく、「ヒキコモリは「甘え」の問題ではなく「絶望」の問題だ。」とした上山和樹。>http://d.hatena.ne.jp/ueyamakzk/20040402#p8

*2:年金天引きで一見自己負担のように見えているが、元々額の少ない国民年金受給者ならばだだちに生活に直結し、75歳以上の親を扶養する40代以上の現役労働者の負担増となる

*3:ま、政治といえば一番政治闘争にあけくれてるのが、なんとしたことか労働組合同士なんだが、この後に及んでまだ「連合」か「総評」かで揉めてるバヤイではないだろう。