衛生と健康福祉

もうひとつ、見逃せない流れとして1950年代前後は「精神保険福祉」という思想が国際的潮流として台頭したことだ。
1948年にWHO発足、国際精神保健連盟WFMH結成した。そこで、国際疾病分類がなされ、「精神障害」が規定された。49年には国立精神衛生研究所NIMHが米国で設立された。1909年からあった全国精神衛生委員会は、“mental hygiene”→“mental health”とした全国精神保険協会として、精神障害の予防&治療だけではなく一般人の精神的健康の向上をめざす意図が盛り込まれた。また英では「治療共同体」ということで病院内の民主化が唱えられ始め、50年代に入ると診断主義と機能主義の長所を取り人れたパールマン「問題解決アプローチ」トマス「行動変容アプローチ」といった日常個人生活履歴に踏み込んだ積極的手法が盛んに試みられるようになる。上記に書いた社会不安とセットで、共同体を重視し個人介入していく風潮で、貧困・病気の連鎖を断ち切り生活改善という健康福祉の立場では、自己責任な薬物依存や怠惰な日常生活の改善に社会的関心が強まった。のちのマズローらの「自己実現理論欲求段階説)」などもそのひとつである。>個人主義vsコニュニティ
健康管理の波は現代では、「肥満」が自己管理の不徹底でありひいてはそれが仕事の管理能力を疑われる事態にもなっている。そういうエスタブリッシュの健康アッパー思考が、喫煙・飲酒といったダウナー的嗜好の規制へと向かう。大麻解禁の根拠として煙草より害がないということをあげているが、その煙草が欧米を中心として公共機関で次々と禁煙になっている。>http://www2u.biglobe.ne.jp/~MCFW-jm/tobaccocanadausa.htm 07年米国映画協会(Motion Picture Association of America、MPAA)は、映画の自主規制コード審査対象に、性描写、暴力描写、ひわいな言語使用に加え、喫煙シーンも含めると発表した。
視覚障害者や傷痍軍人保護以外は法的にはなにもなかった日本では、48年大麻取締法と共に医療法・医師法保健婦助産婦看護婦法・性病予防法・優生保護法が制定されヘレン・ケラー来日、49年には「更生」を打ち出した身体障害福祉法と日本精神病院協会が始動し、50年に精神衛生法毒物及び劇物取締法生活保護法が、社会保障制度としてあいついで成立。
60年代のサブカルチャーの台頭は、行き詰った欧米主導文化のカウンターから「第三国文化」への憧れという「オリエンタリズム発見」であった。しかしながら、LSDを始めとしたケミカルによって「感情開発」しようという発想は、結局は50年代の問題解決・行動変容アプローチの亜流変形版でしかなかった。ニューエイジ思想としてそれは自己啓発などのセミナーの流行をへて、トランスパーソナル心理学にひきつがれる。>id:hizzz:20040624#p3
そしてベトナム帰還兵という現実を突きつけられた80年代米社会の沈滞は、三度社会的不安・不寛容が高まり規制強化に社会が傾いた。そのパターンが、混迷するイラク戦争にある現在に引き継がれて、保守派の台頭という形で反映されているのではないだろうか。

サイケデリック思想は主義として社会の強制システムを拒絶した。そのため真の独創性と奇抜さ・狂気とに、あるいは通常要請される社会的適応力を超える能力があることとその要請に応える力がないことに体系的で明確な区別をつけられなかった。
ヒッピーは人の心をひきつけ散発的な独創性を発揮したが、しばしば甘やかされた子供のように振舞った。
集団でLSDでトリップするような心理的共同体は、日常生活に役立つ取り決めを何一つしなかったため、本物の共同体のモデルにはなり得なかった。

グリンスプーン&バカラー『サイケデリック・ドラッグ―向精神物質の科学と文化

大麻規制緩和派は、自分たちがクリーンであることを強調するあまりに、こうした過去の社会的事情を全てオミットしてポリティカル・コレクトを立てようとするから、米国三大財閥であるデュポンと結託した政府の恣意という、反資本エコファンタジーとしての理想的植物「麻」vs科学・資本の悪の権化支配というストーリィに捏造され、そんなものにはダマされないクリティカルで明晰なオレ達という相互承認の為に、伝搬されたのであろう。神聖イメージはこうしていとも簡単に育つ。>id:hizzz:20081102
国連薬物犯罪局UNODCでは、大麻が麻薬として国際的合意に達しておらず罰則がきわめてアンバランスな状態で施行されてることが国際的体制を侵食しており、単一条約の文面と精神の間のギャップを、大麻に関するマニュフェストとして埋めるか、条約加盟国において大麻の状態を再規定する討論を行う必要があると提言している。

国連薬物犯罪局『世界薬物報告書2008』
http://www.unodc.org/unodc/en/data-and-analysis/WDR-2008.html