「貧困」の定義

国連開発計画(UNDP)の『UNDP人間開発報告書〈1997〉貧困と人間開発』では、「貧困とは、人がすることができる、またはなることができる価値あるものを剥奪された状態」と定義している。単なる(金銭)所得不足だけでなく、もっと広義のさまざまな面に渡る剥奪状態を考慮している。
またここでは「人間貧困」という特別な概念が提示されているが、これは所得不足での狭義の貧困と区別する、広義概念としてのUNDP造語である。元々「人間開発」をかかげるこの報告書シリーズ全体を覆う概念は、すべての人間にとっての重要な能力を拡大することに重点をおいたものである。健康で人間らしい生活水準や尊厳や自尊心といった、こうした基本的能力の(阻害を含んだ)何らかの要因による不足で、他の活動選択肢が阻まれ、先のない単一状況へと追い込まれることが貧困を招く・貧困から抜け出せない重大要因であるとしている。
その「貧困を招く」「貧困から抜け出せない」システムを改善し、「健康で人間らしい生活水準や尊厳や自尊心」といった人権の保障に務める大きな公的機関が、その地域民を有権者とした行政府(自治体・国家)であり、国家はその役割=人権に対しては最優先の説明責任があるとする。

国家の法的な説明責任を評価するということは、国が資金の節約、歴史的背景、自然条件を考慮に入れながら、人権を尊重、保護、実現しているかを問うことである。
【人権の尊重】
国民の個人の権利の追及を左右するような行動を控えること。たとえば、拷問や恣意的逮捕、非合法的な強制立ち退き、保健医療から貧困者を締め出す高額な医療費の導入など。
【人権の保護】
他の行為主体による侵害を防ぐこと。具体例としては、民間企業の雇用者に基本的な労働基準を守らせる、メディアの独占資本を防ぐ、親が自分の子供を就学させないことを防ぐなど。
【人権の実現】
立法、予算、司法、その他の措置を講じること。たとえば、同一労働同一賃金を義務づける法律を整備する、最もひどい剥奪状況にある地域への予算配分を増やすなど。

上記を踏まえての人権開発政策には、下の三つの重要優先事項があるとしている。

●貧しい人々に力をつけ、社会的、経済的、文化的権利を主張するようにするには、言論、結社、参加の自由といった市民的、政治的自由を推進する必要がある。
●国家の人権に対する義務は、最も権利を剥奪されている人々に経済的、社会的、文化的権利を保障するとともに、意志決定への参加を確保するために、最も効果的な政策及び政策立案の諸手続きを実施することである。
●経済的資源を人権促進のために投資しなければならない。