安倍晋三の「愛国心」探し

第165回国会 安倍内閣総理大臣所信表明演説
美しい国、日本」の魅力を世界にアピールすることも重要です。かつて、品質の悪い商品の代名詞であった「メイド・イン・ジャパン」のイメージの刷新に取り組んだ故盛田昭夫氏は、日本製品の質の高さを米国で臆せず主張し、高品質のブランドとして世界に認知させました。未来に向けた新しい日本の「カントリー・アイデンティティ」、すなわち、我が国の理念、目指すべき方向、日本らしさを世界に発信していくことが、これからの日本にとって極めて重要なことであります。国家としての対外広報を、我が国の叡智を集めて、戦略的に実施します。

第166回国会 安倍内閣総理大臣所信表明演説
美しい国、日本」を創っていくためには、我が国の「良さ、素晴らしさ」を再認識することが必要です。未来に向けた新しい日本の「カントリー・アイデンティティ」、即ち、我が国の理念、目指すべき方向、日本らしさについて、我が国の叡智を集め、日本のみでなく世界中に分かりやすく理解されるよう、戦略的に内外に発信する新たなプロジェクトを立ち上げます。

安倍晋三所信表明演説で盛んにいってた、「自信と誇りを持てる「美しい国、日本」」「未来に向けた新しい日本の「カントリー・アイデンティティ」」。さっぱり内容なくってワケワカメだなと思ってたら、4つの指針がでた。

国の理念、目指すべき方向
1 文化、伝統、自然、歴史を大切にする国
2 自由な社会を基本とし、規律を知る、凛とした国
3 未来へ向かって成長するエネルギーを持ち続ける国
4 世界に信頼され、尊敬され、愛される、リーダーシップのある国

「国の理念、目指すべき方向」というならば、「カントリー・アイデンティティ」じゃなくって、「ナショナル・アイデンティティ」でわ?「ナショナル」=右傾化というのが負のスティグマがついているので、「カントリー」に衣替えしてみる「新しい日本」てことなのかな。しかし、いやぁ、この↑4つって、特に「日本国」でなくてもドコの国にもってっても当てはまるような抽象的ことばかりじゃないかと思っていたら、やっぱり言葉ダケ先にあって、これ以上の具体的中身はなかったようで、具体的中身を審議して決めるらしい。「カントリー・アイデンティティ」については、解説があった。

国民一人ひとりが、言わば「美しい日本づくり、美しい自分探しへの旅」を始め、その思いをきっかけに自らが行動するような身近な視点での取り組み身近な視点での取り組みを推進すること。その結果、描き出されたものを「美しい国、日本」「美しい国、日本」として皆で共有し自覚し合う共有し自覚し合う(カントリー・アイデンティティ)こと。
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/utukusii/070403/project.pdf

おぉう!出たよ「自分探しへの旅」青春でつよ、奥さん。青い鳥を探しに出かけて、結局お家に幸いはあったっていうことなのかな。そんなの独りでやって、各自で書き出しとけばよいだろうに。
そうして「「美しい国づくり」企画会議」とやらが始まった。どーゆー基準で審議委員が選ばれているのか、メンツをみるとカナ〜リ不安なんだが…
美しい国づくり」企画会議
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/utukusii/index.html

「日本らしさ」や「日本の美しさ」に関する意見

  • 景観の美しさから、物心ともに美しい日本にしたい。
  • 美しさをつくり、守るのは人。保全・再生・創造が必要。日常の生活、立ち居振る舞いの中にある美しさを残したい。美しさを感じる心が美しい国を創る。
  • 自信を持って出せるものが美しい。命を大切にする、食を大切にする、虚業でなくモノ作りをする国は美しい。
  • 日本語に世界の古典が翻訳されており、隠れた世界公用語としての価値を見直すべきだ。
  • 遠慮を中心とする「引き」の文化は美しい。技術の高さは美しさにつながる。
  • 科学技術による強い国づくりから、文化の多様性を中心とした美しい国づくりへ。地域発見が大切。
  • 熱心で勤勉な人間集団、科学技術に対する執念などの強みが日本の良い点。
  • 日本は「融合(先端技術と老舗の技の融合)」が得意。
  • 形、言葉、心で考えることが美しい。
  • 現場のたくみの技があるから、調和・制御のとれたハイブリッドエンジンの仕組みができた。
  • 世界最小、最軽量は小さなものの中に宇宙を感じる精神が根底にある。
  • 四季のある自然と共存する感性。合理的に白黒つけず、お互いの最善を見つけ出す姿勢は良い点。人々が、日本らしさに向かい合うことは、世の中の様々な分野において、長い目で見れば良い結果をもたらす。

http://www.kantei.go.jp/jp/singi/utukusii/070403/gijigaiyou.pdf

むむう。。。「国家としての対外広報を、我が国の叡智を集めて、戦略的に実施」した筈の内容がコレ。「自分探しの旅」に出て形容詞を羅列した「美しさ事例」を言い合ってる、らしい。のっけから「美しい日本にしたい」って、そんな願望まで含めるなんて、幅広すぎ。基準となる「美しさ」とは何かという定義がお留守のまま、個々がてんで勝手にこんな内容を延々続けるのかなー。曖昧な形容詞について考えてみても、各自バラバラな曖昧な結論しか出てこない。「我が国の叡智」はなはだ心寒し。言葉ダケ先にある素朴な理念主義は、かくもこんなに空虚。そして今度は広く国民に意見募集するらしい。
美しい国づくりプロジェクト「美しい日本の粋(すい)」
http://www.kantei.go.jp/be-nippon/
国民総意の「美しさ」抽出運動をはさむことで、民主主義的ナショナリスムの誕生ってことかな。しかし、審議会の意見を見ても、これまでの自己経験からふりかえった意見ばかりだ。それなら「国民性の変遷」みたいな文化生態学とかの社会調査有るんじゃあないのか。しかし、そんな意見を集約したところで、それをこの先の指針にするにはカナ〜リ不向きだと思うんだけど。…ぉお、そうか、その後ろ向きが「右傾化」なのか。そーか、そうか。。
教育3法で強化される教育基本法は「愛国心教育」=道徳強化らしいのだが、国民の意見を募集してこれから審議するような中身のない「日本らしさ」を、どう具体的に教えられるのだろうか?すげー論理矛盾。じゃなきゃ、最初から隠してある模範回答に国民総力あげてもっていこうとする大欺瞞なんだけど。
前にNHKで公立小学校の実際の道徳科目の研修授業*1が放映されていた*2。が、その内容は、四季のない国と日本と比べて、日本は四季があるから美しい/素晴らしいというムリヤリ*3な誘導授業だった。
ところで、反国家運動や憲法九条アイテンティファイする方々や、二次元オタクや、各種セカイ系な皆様方は、そこで仲間内で冷笑してないで、この絶好の機会を逃さずに、どんどこ「自分の考える美しい国」の萌え萌え意見を送ってはいかがだろうか?

*1:東京都教職員研修センター http://www.kyoiku-kensyu.metro.tokyo.jp/

*2:クローズアップ現代愛国心って何ですか〜揺れる学校現場』

*3:なにも海外と日本だけではなしに、国内でも四季の差のないところは美しくないという価値も同時に植え付ける可能性がある。

美しい日本さがしの旅

安倍の「美しい国、日本」というコンセプトは戦前の焼きなおしだということは、前にカキコした通り。>id:hizzz:20070126
「美しき日本(Beautiful Japan)」というポスターが第一義に観光ポスターであったことがポイントで、実は国民あげての美しい日本さがしの旅もとうにやられている。
古くは洞庭湖の「瀟湘八景(夜雨/晩鐘/落雁晴嵐/帰帆/夕照/秋月/暮雪)」、室町「近江八景」、江戸「金沢八景」などの「八景」ものがある中、1927年(昭和2年)、大阪毎日新聞と東京日々新聞は鉄道省の後援で、昭和新時代を代表すべき日本の景観を選定すべく「日本新八景」という募集を行い、「燃える郷土愛」*1これぞカントリー・アイデンティティが高じてか、各地域で候補地をしぼり後援組織を結成して投票活動が行われた結果、当時の総人口約6000万人を越える9300万票にのぼる応募で、もりあがりまくり。日本八景のほかに、日本二十五勝日本百景も選定された*2。これは後の国立公園の選定に繋がる。
その八景ブームは、観光旅行だけでなしに、メディアで形をかえて宣伝ー消費され波及した。絵はがき、写真集、絵画、更には、幸田露伴田山花袋北原白秋高浜虚子泉鏡花らの競作紀行『日本八景―八大家執筆』。婦人雑誌『主婦之友』の付録にまで鳥瞰図*3日本八景名所図会』*4がつけられた。
このように、こういう風に対象を限定したほうが、意見出しやすいし纏めやすいし、後々伝搬しやすいとおもうのだが、戦略、おもいっきりまちがってないかな。最後は官僚の集約作文能力如何にかかってくるのか。。。>日本らしさ探し
参考
古川 彰, 大西 行雄『環境イメージ論―人間環境の重層的風景』
「郷土」研究会『郷土―表象と実践』

*1:当時の毎日新聞の見出し

*2:http://www.env.go.jp/nature/ari_kata/shiryou/031208-4-3.pdf

*3:旅行ブームにともなって、鉄道鳥瞰図等が沢山製作された

*4:吉田初三郎は「美しき日本(Beautiful Japan)」ポスターの作者でもある。

日本人の価値観最前線は下がりめ現状維持

…とゆー訳で、「国民性の変遷」調査、探してみた。其の名もそのものズバリ、統計数理研究所の国民性調査委員会が、1953年から五年おきに同じ設問をする「日本人の国民性調査」。最終調査は2003年。この世論調査は日本が先行しており、のちのアメリカGSS(General Social Survey)が始まるきっかけともなったものであるという。
日本人の国民性調査
http://www.ism.ac.jp/http://www.ism.ac.jp/~maeda/KSJapan/index.htm
1953年の調査開始から73年迄は「伝統的な意見」が減り民主的意見が増えたが、次の78年には一時的に「伝統回帰」が見られた。調査開始以来一番の変化は、女性が女性であることを積極的に楽しむ方向の回答が一貫して増加中、時代の変化を一番受け続けている。1970年前後から日本人の「家族志向」が高まっている。仕事以外でも面倒見の良い人情課長は最近ではやや落ちてきてはいるものの高い支持を得ているが、しかし、職場での濃密な人間関係は年々敬遠されつつある。生活水準は83年以降下がりっぱなしであれど、くらしむきに対する満足度や評価は、変化なし。経済や心の豊かさといったことには、93年にがたんと下降してそのままであり、将来の見通しは暗い。

国際比較調査データアーカイブでは、日本/イギリス/フランス/ドイツ/アメリカ/オランダ/イタリアの7ヶ国価値観調査や、アメリカ西海岸日系人、ホノルル住民調査がなされている。その中で「東アジア(北京/上海/香港/台湾/韓国/シンガポール/日本)価値観国際比較調査:2004年日本A・B調査」2004年度からちょっと面白い項目をピックアップしてみた。
生き方は「人に迷惑をかけないように暮らすこと」68.7%で、その人生の考え方としては「人生は自分で切り開いていくものだ」78.0%。「たいていの場合はっきりとした善と悪はなく、その時の状況による」66.4%。
身内と他人の境目は「家族や親戚は身内だが、それ以外は他人」40.8%「家族は身内だが、それ以外は他人」26.4%「家族や親戚、親友や恋人は身内だが、それ以外は他人」21.1%、恋人の位置が極めてビミョ〜。「個人の権利を認めるためには、公(公共)の利益が多少犠牲になることがあってもしかたがない」40.9%、その反対「公の利益のためには、個人の権利が多少犠牲になることがあってもしかたがない」39.6%で、公ー個の関係はほぼ拮抗。しかし個人かグループかでは「従業員たちの個々の努力を集結して成し遂げられた時でも、彼らの仕事グループがグループとして報酬を受けるべきだ」54.1%でグループ優先だが、25〜29歳層だけ逆転して61%が個々に報酬を求む。安賃金でコキ使われ感噴出なのかな?良きリーダーの資質は3つ選択で「部下を公平に扱う」52.9%「判断力」47.6%「真剣に仕事に取り組む」46.8%「部下に尊敬され、好かれている」44.2%と、人間関係/姿勢重視。スジを通すか丸くおさめるかでは、「まるくおさめる」47.5%「スジを通す」44.2%だが、39歳以下では若くなる程スジ派が多くなる。イソップ童話の怠け者のキリギリスには「怠けていたのはいけないけれども、これからはちゃんと働くのですよ、といさめた上で、食べ物をわけてあげる」80.9%。
超能力や念力は「おもしろい・たのしい」21%「ばかばかしい・いない・ない」17.8%「いる・ある」17.2%なのに対して、幽霊や亡霊や人のたたりは「あってほしくない・いてほしくない」34.3%「ばかばかしい・いない・ない」16.4%「おそろしい・こわい」16.3%と、TV番組のお陰かそこそこ定着。「いままである特定の宗教にかかわらず、「宗教的な心」というものを、大切だと思う」62.8%。しかし、神仏は「あるかもしれない」43.1%「ない・存在しない」17.2%「ある・存在する」36.9%と曖昧な認知。死後の世界は「あるかもしれない」40.5%「ない・存在しない」33.9%「ある・存在する」17.3%。霊魂は「あるかもしれない」44.5%「ある・存在する」27%「ない・存在しない」21.3%と、神仏霊にきわめて親和性高いスピ派が多数。しかし祖先を尊ぶかといえば「普通」45.4%「尊ぶ」43.2%、年齢が下がる程尊ぶ者がへる。天皇制先ボソリ、か?
日本のすべきことは「環境問題への取組み」46.5%「地域紛争の解決、難民への支援や平和維持活動」29.1%。

数字で見る日本人の心ー「国民性調査」50年に軌跡 坂元慶行
http://www.soken.ac.jp/education/journal/no.9/doc/japaneseSpirit.pdf
NHK放送文化研究所,日本放送協会放送世論調査『現代日本人の意識構造[第六版]』
http://www1.doshisha.ac.jp/~ynishiza/HaifuPDFs/pc1-02_NHK2000.pdf
野村総合研究所社会産業研究本部『変わりゆく日本人―生活者一万人にみる日本人の意識と行動』
林 知己夫『日本人の国民性研究』
電通総研, 日本リサーチセンター『世界60カ国 価値観データブック』
国際社会調査プログラム:International Social Survey Programme
http://www.issp.org/
世界価値観調査:World Values Survey
http://www.worldvaluessurvey.org/