新旧を渡す糸

鴎外が、文学者であると同時に、医学者であり時の政府の要職を勤めていた実務者であったという事実は、大きい。漱石と違って、たいしたストレスにも見舞われなかったかのような海外留学体験について、桑木巌翼は、鴎外が留学した当時のドイツは、自然科学的哲学が勢力を占めてた時であるとして、以下のように鴎外が専攻とした「自然科学」の思想的意味をさぐる。

その哲学思想はこれらの自然科学的哲学に存ずるところの実在論であったと言い得ると想う。その実在論が、形而上学と結びついている点に於いて、英米風の経験論、フランスのコント一派の形而上学排斥の思想とも雲泥の差があるのであるが、しかし事実の存在を確信しその事実を唯一の証拠とする点に於いて実証主義の立場にあるといってよい。
桑木巌翼『森鴎外博士の哲学思想』

さて、はて、では鴎外はナニを実証しようとしたのであろうか。