その他の戦争読解本

学部4年22歳な甥っ子の本棚を見れば、マンガがどど〜んと並んでるその他は、いくばくかの教科書・参考書と『バカの壁』や『見た目が9割』といった新書7〜8冊の他に『ゴーマニズム宣言』が1冊。イマドキってそんなもんかな。でへへへと笑ってる本人的には、あくまでそれはマンガなんだそーだが。何分、彼の思考の基本は、ドラゴンボールだしなぁ。その土台に「民族協和・王道楽土」とか「反日愛国」とかのスローガンをぽっと断片的にもってくると、その字句内では成程それは良いことだと素直にとってしまうんだろうなぁ*1。ま、したから、歴史修正派は「狭義のナントカ」という前提を文脈として常に必要とする。いってみれば文脈を離れたポストモダンのテクスト読解って奴の亜流なのかな。しかしそれはせいぜいひとつの解釈ファンタジー=文学であり、「歴史」とはいえない。あまりにも有名な史学入門の大古典、E・H・カー『歴史とは何か』では、「歴史とは現在と過去との対話である。現在に生きる私たちは、過去を主体的にとらえることなしに未来への展望をたてることはできない。」ともいうが、日本の歴史に於いては何べんもカキコしてきた通り、その「主体」こそが常に一番問題となるのである*2
最初に歴史という切り口の面白さに気がついた時に繰り返しワタクシが読んでいたのは、中央公論社の『日本の歴史』『世界の歴史』という文庫シリーズだったのだけど、その中公が出した『日本の近代』シリーズ*3は、多様な切り口から「近代」を考察してて上記に上げた9巻目以外もワタクシ的には超おすすめ。んが、何分、全16巻な超重量なんで、興味のある巻目をピックアップされたし。…で終わったら、石なげられるか。
軍記物としては、小松真一虜人日記』。酒精製造増産の為にフィリピンに軍属として派遣され捕虜になった科学者が、お国の為に意気ごんでやってきたら暇をもてあましてるエリート様や技術者達の「変人」模様とちぐはぐな部隊運営やその後の変遷を記しながら、数々の事例を基に日本の敗因を21条(やや重複してるが)に分析分類してるところが、他の日記ものと一味違う読みどころ。
満州についてコンパクトに纏まってて読みやすかったのは、山室信一キメラ―満洲国の肖像』。
東京裁判については、かなり嵩高で読むの時間かかるが、日暮吉延『東京裁判の国際関係―国際政治における権力と規範』。よくある元来の2元論争じゃあなくって、証拠と記録を欠いた起訴・判決文の作成過程、外交政策としての裁判、連合国間・諸国家・組織の競合関係といった複合関係が包括的に考察されている。
最近の史説動向としては、加藤陽子戦争の論理―日露戦争から太平洋戦争まで』。旧来の私文学なものでも、ブログでも跋扈する右派左派的「常識」でも、メディア・ナショナリズム*4司馬史観でもない、多角的歴史実証学研究の一端を知ることが出来る。
女性の人権に関しては、論文集『東アジアの国民国家形成とジェンダー―女性像をめぐってー』が、「文明国」を目指す日本とその支配化におかれた諸地域での2重3重に渡る差別と各ナショナリズムフェミニズムが近代化にともなってねじれからまっていった展開を、「良妻賢母」=「徳婦」という規範モデルを通して分析。民族独立のナショナリズムは女性抑圧の側面をもち、独立問題に回収されない女性問題はあり、近代のブラック・エリアであるセクシュアリティ規範の矛盾*5は顕在化していたとみる。結局この「近代のブラック・エリア」が現代にもちこされてきたせいと、フェミニズム内でもあるセックスワークに対する認識差とも相まって、「旧日本軍慰安婦」を人権問題として公にすることがこんなに遅れたのであろう。

*1:別になにもこれは自由史観などの歴史修正派にかぎったことではなく、護憲や反戦・戦後賠償運動をしてる左派内でも新旧憲法教育勅語軍人勅諭といった基本資料すらロクに目を通していないで、識者スローガンをただコピペ反復増幅してる者が多い。

*2:日本のくるくる入れ変わる主体・主語の曖昧さについてレヴィ=ストロースは「スリッパの弁証法」と現した。>『季刊国際交流 第16号』一民族学者の見た日本 http://www.jpf.go.jp/j/publish_j/kkoryu/index.html

*3:松本健一日本の近代 1 開国・維新―1853〜1871坂本多加雄日本の近代 2 明治国家の建設―1871〜1890御厨貴日本の近代 3 明治国家の完成―1890〜1905』 有馬学『日本の近代 4 「国際化」の中の帝国日本―1905〜1924北岡伸一日本の近代 5 政党から軍部へ―1924〜1941五百旗頭真日本の近代 6 戦争・占領・講和―1941〜1955猪木武徳日本の近代 7 経済成長の果実―1955〜1972』 渡邉昭夫『日本の近代 8 大国日本の揺らぎ―1972〜戸部良一日本の近代 9 逆説の軍隊鈴木博之日本の近代 10 都市へ』 宮本又郎『日本の近代 11 企業家たちの挑戦竹内洋日本の近代 12 学歴貴族の栄光と挫折水谷三公日本の近代 13 官僚の風貌佐々木隆日本の近代 14 メディアと権力鈴木淳日本の近代 15 新技術の社会誌伊藤隆日本の近代 16 日本の内と外

*4:id:hizzz:20070109#p3

*5:性規範の男女格差:強姦で傷ついた上に非難されるのは女性側というようなこと