アジア系アメリカ

現在、日本への「慰安婦謝罪要求決議」は、アメリカからカナダ、EU、さらにフィリピン下院で採決されている。この議案の世界的拡大に伴って、この決議案を促進したマイク・ホンダ米下院議員(民主党)のことはもう話題にはのぼらなくなっている。ホンダ・バッシング側はもとより、慰安婦問題を今日的課題とする側も、アメリカに於けるアジア系住民の歴史や意識には、かな〜りうといものがある。
幼少期日系人強制収容所で過ごしたホンダ議員にとっては、日系アメリカ人補償運動“Redress”と、この旧日本軍慰安婦問題とは、「国家犯罪」としてアメリカと日本の正義を問う切り離すことのできない人権問題だと度々主張している。1988年日系人強制収容所に対する補償を定めた「市民の自由法」が制定し、生存者全員に大統領の謝罪の手紙と共に補償金が送られた。他に議員は、南北戦争時に参加した中国人兵士への名誉市民権を与える決議案を提出している。
L・ヒラバヤシに依れば、日系人政治家は3タイプに分けられるという。自己コミュニティの日系人を活動手段とする者、1970年代以降のブラジルやハワイでの自己主張を掲げて日系人有権者に訴える一方で一般大衆へもアピールする者、コミュニティとのつながりをほとんどもたず必ずしもそのコミュニティの主義に同調している訳でないが、日系人以外から幅広い支持を得ている者である。60年代の公民権運動の高まりの中、日系移民達は西欧人の対意語でしかない「オリエンタル」という蔑称を打破すべく、カルフォルニアで「アジア系アメリカ人」という政治戦略的運動“Asian American Political Alliance”が誕生した。
最近のアメリカのアジア系移民の実情は、減りつつある日系とは対照的に中・韓・インド系が増大しているという。これらの「新移民」達は、祖国での嫌・反日感情のままに日本人と日系人の区別なく接触してしまう場合も多く、「アジア系アメリカ人」といっても、その内実はバラバラである。高所得者が多い成功したマイノリティである日系人が、プアーなベトナムカンボジア系などとどう連携していくのかといったひややかな見方もある。バージニア工科大銃乱射事件でみられるように、どの人種が犯人かによって、アジア系コミュニティがうおさおするケースがある。>id:hizzz:20070419

アジアでの戦争体験を携えた新移民たちが続々とアメリカへ流入してきたことで<アジア問題のアメリカ化>が進んでいることは確かだ。そのために、アジア系の抗議運動も誰の差別に誰が抗議するか、様相はさらに複雑化しつつある。
収容所体験を持つ日系人も、日系二世の元兵士も、韓国独立運動の闘士の子孫も、旧日本軍に親を惨殺された中国系やフィリピン系も、あるいはかって鬼畜米英を叫びながら竹槍を手にした戦争花嫁も、今はアメリカに住む広島と長崎の被爆者も、かっての戦争体験を語り継ぐべき「アジア系アメリカ人」の一員としてある。アメリカのマルチ・エスニック社会とは、かように多様な声が立体交差する社会のことでもあるのだ。

村上由美子アジア系アメリカ人―アメリカの新しい顔

これまで日系人が他のアジア系と政治的共同歩調をとることは、皆無に近かったのであるが、「慰安婦謝罪要求決議」はこうしたアジア系市民が政治的に纏まる契機になっている。911は、かっての「リメンバー・パールハーバー」に結び付けられ、テロ叩き=ムスリム系バッシングは、多くの日系人の過去の悪夢を呼び覚ました。そこで日系とムスリムとの「強制収容所を繰り返すな」という連携も、生まれている。

「マイノリティと戦争の遺産 強制収容所先住民族、原爆」マイケル・S・ヤスタケ
http://www.wako.ac.jp/souken/touzai96/tz9607.htm