追補:自立とホームレス

いよいよ日雇い派遣は禁止になりそうだが、そうなったとしてもそこに従事してた労働者が全員派遣先へ正社員や直接雇用(バイト)にスライド出来得る訳ではない。アキバ無差別殺人犯25歳の業種先でみても、例え前年度高収益を上げていたとてエネルギー問題も含んだ世界的産業構造転換の渦中にある自動車産業自体は斜陽にむかう業種。現に国内自動車登録保有台数が前年度割れをしてるし、本年度の収益見込みを各社軒並み下方修正している。25歳の職場でもそれを受けての派遣リストラの最中だったのである。法的に派遣禁止となれば、尚更それが促進されるだけであろう。業務は海外シフトに振り分けられる分と、派遣の上澄みの精鋭を直接雇用しあとは「外国人研修生及び技能実習生」に転換されるだけであろう。*1
では住み込み期間工で、職も住居も同時に喪失し預貯金はおろか失業補償なんかも当然ないといった、そこからはじきだされた人々はどうなるのか。残るは、昔ながらの寄せ場か野宿。
政府の「ホームレスの自立の支援等に関する特別措置法」では、就労する意欲はあるが仕事がなく失業状態にある者/医療、福祉等の援護が必要な者/社会生活を拒否する者(社会的束縛を嫌う者、身元を明らかにしない者等)の3タイプにホームレスを分類する。
野宿者(ホームレス)研究をしている丸山里美に依れば、この3タイプの内、社会生活拒否者は、見捨てられるか、取り締まられるという*2。家族親類縁者は霧散し、労働市場からは対象外、寄らしむべし知らしむべしな公的福祉からもとりのこされ、社会的孤立が極まった老人や軽度障害者などの中には、皮肉なことに刑務所が最後の保護場所となっているケースもおこっている*3山本譲司累犯障害者http://ameblo.jp/hiromiyasuhara/entry-10022205582.html
「自律/自立」を大前提にしてきた社会・世間ではあるからこそ、誰の世話にもならずになんとか「自立」しようとして野宿者となって生活を営もうとサバイバルすると、「勝手に生活をしてはならん」という始末。どうせいっちうねん。。。
特に男性へは「自立圧力」が高いからこそ野宿選択されるというが、そんな男性にひきずられる形などをとって女性野宿者は居ないわけではない。しかしその声は、ホームレス男性の声や「排除のイデオロギーに対抗」する主体を見たいと欲する研究者によって、その実態がかき消されていると丸山は指摘する。
まーそれはなにも、野宿者にかぎったハナシではないのだけどね。例のワープアを問題視する中で「特に男は低収入では結婚も出来ない」という理由が一番まかり通っているが、「金がなければ結婚できない」「男こそ家族を養わなければならない」という理屈、「男性=主たる稼ぎ手、女性=被扶養者+ケア提供者」まんま。何度か歴史でほじくって書いたが、主体=男性を立てる為に、女性を分断操作しまくるという手法は今もそこかしらで営々と。。。

デイペッシュ・チャクラバルティはサバルタンの歴史を指して、『必然的に断片化されていて挿話風である』(Chakrabarty1995=1996:100)と述べているが、女性野宿者たちの実践も、長期的な視野にたった一貫性をもたない、断片的でしかないようなものとしてあらわれていた。つまり、野宿者の<共同性>が存在し続けることを前提に野宿を続けていきたいと語るHAさん、女性である自分が生活保護を受給できると思わなかったが、日々生起していく<共同性>のなかで野宿を脱することになったKSさん、『いつも男の人に頼』った結果、野宿生活と野宿からの脱出とを繰り返すTNさんの実践は、限られた資源や暴力という制約のなかにおかれ、伝統的に女性に期待されてきた役割に添って行為を遂行しているために、一貫性や主体性のなさと見えるようなものとしてあらわれている。こうした断片的でしかないような生のあり方は、野宿者であり女性であるということで、二重に周縁的な場においやられている女性野宿者たちの置かれている状況をよく示すものである。しかしこれは、女性野宿者に本来的に固有なものでも、女性野宿者だけに見られるようなものでもない。むしろ、主体性や合理性の残余としてあるネガティブなものが伝統的に女性におしつけられてきたことの結果として、女性に顕著に見られるようなことがらとしてあらわれているのだろう。

丸山里美「野宿者の抵抗と主体性―女性野宿者の日常的実践から」『社会学評論』
http://www.minpaku.ac.jp/research/jr/04jr070_060217maruyama.pdf

この後丸山は「自律した主体であることを欲望する知のあり方を問いなおす手がかりとなるのではないだろうか。」というのだが、「知の問題」といった学術的なこと*4とは別にして、「自律した主体」の在り方とは、アイデンティティ問題と自立といったモダニティの構造変容になるんだろうな。そしてそれに国家・社会制度がまったく追いついていないで崩壊していることは、確か。

*1:外国人実習生:10年で8倍、過去最多の5万3999人>http://www.moj.go.jp/PRESS/080601-1.pdf

*2:西成署警察官の暴行に抗議する!釜パト活動日誌 http://kamapat.seesaa.net/article/100520737.html

*3:高齢者犯罪の今 http://www.kobe-np.co.jp/rensai/200612kourei/tokushu.html
http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/yw/yw08030901.htm

*4:近代的主体の未成立=日本的近代の特殊性の問題を、西欧近代化の遅れが今日の近代化最先端をもたらしたといわんがばかりのポストモダン立ち位置論とか…