グローバル倫理の核

マイケル・サンデルのいう「自己(self)は、理性的存在(ends)によって初めて得られるもの」でそれは「(自己)理解の対象である主体を知る(または探究する)という行為が(自己)理解対象によって規定されるように、選択ではなく熟考(自己を深く見つめること)によって得られるのである」アイデンティティに先だつ理性の発動を求め、国連は従来の1民族国家=「ネーション・ステート」に代わって多様な民族・宗教・言語的アイデンティティを持つネーション=国民が、1つの国家政策の中で協調して平和に共存できる「ステート・ネーション」を提案している。また、そのステート〜ネーション〜個人を貫く基本的な考え方として、「グローバル倫理」の5つの概念をあげている。

グローバル倫理のもとになる基本的な倫理感は、あらゆる文化が共有している。個々人が複数の相互に補完的なアイデンティティを有することができるということは、これらの価値観の共通点を見出すこともできるということを意味している。
グローバル倫理とは、いわゆる「欧米の」価値観を世界の他の地域に押し付けるものではない。価値観の押し付けは、グローバル倫理の幅を人為的に制限することになり、同時にそれ以外の文化や宗教やコミュニティを侮辱することになり得る。グローバル倫理の根源にあるのは、人間の脆弱さという概念であり、また可能な限り個々人の苦しみを和らげたいという願望である。もう1つの根源は、全ての人間は基本的道徳観において平等であるという信念である。自分がされたいように他人にも接せよ、という訓戒は、仏教、キリスト教ユダヤ教道教、ソロアスター教では明確に言及されており、その他の宗教においても暗に諭されていることである。
市民的及び政治的権利に関する国際条約的(自由権規約)と経済的、社会的及び、文化的権利に関する国際規約(社会権規約)によって強化された世界人権宣言を各国が共に支持したのは、あらゆる文化に共通のこれらの教えを基礎としてのことである。欧州人権規約米州人権規約アフリカ人権憲章など、地域ごとに結ばれた条約も同様の動機にもとづいている。最近では、2000年の国連総会において全会一致で採択された国連ミレニアム宣言によって、人権、基本的自由、、そしてすべての人に対する差別のない平等の権利の尊重に国連が引き続き取り組んでいくことが改めて確認されている。
グローバル倫理の核となる5つの要素は次のとおりである。

【公平性】
あらゆる個人が、階級や人権、性別、出身社会(コミュニティ)や世代の別なく平等であることを認識することは、普遍的価値観の基本概念である。また、公平性には、次世代が利用する環境と天然資源の保全ということも含まれる。
【人権と責任】
人権はあらゆる国際的な行動に関する不可欠な基準である。基本となるのは、自由と平等を脅かすものから全ての人の尊厳を守ることである。個人の権利に重きを置くことは、個々の人間同士の公平性の表明を認めることであり、それは集団あるいは集団的価値観のためになされた、いかなる要求よりも重視されなければならない。しかし、権利には義務が伴う。つまり、選択の余地のない束縛は抑圧であるが、束縛のない選択は無秩序となる。
【民主主義】
民主主義にはさまざまな効力がある。行政自治権を与え、基本的人権を守り、経済発展に市民が完全に参加し得る状況を生み出す。地球全体で見れば、貧困国、疎外された地域社会、および被差別少数者の参加を確保し、発言権を与えるうえで、民主的な基準は不可欠である。
【少数者の保護】
少数者に対する差別には、無視、政治的権利の否定、社会経済的な排除、そして暴力なと、さまざまな段階がある。より広く国全体や世界全体で少数者が認知され、平等な権利を与えられない限り、グローバル倫理は、完全とは言えない。寛容を促すことがこのプロセスの中核となる。
【平和的な紛争解決と公正な交渉】
先入観に凝り固まった道徳理念を押し付けても、公明正大性は得られない。対立は交渉を通じて解決しなければならない。全ての当事者に発言の機会が与えられるべきである。グローバル倫理は、平和、開発、あるいは近代化への道筋が1つしかないということを意味するわけではない。グローバル倫理は、社会がさまざまな問題に対し平和的な解決策を見出すための枠組みなのである。

Wold Commission on Culiure and Development 1995 ; UN 2000a
UNDP人間開発報告書〈2004〉この多様な世界で文化の自由を』国連開発計画(UNDP)
概要:
http://www.undp.or.jp/publications/pdf/undp_hdr2004.pdf

※2004年度版の基礎となる人権理論
グローバル化した世界では、人権の説明責任の中心に国家が存在するというモデルは時代遅れである。何よりも必要なのはグローバルな人権のとらえ方である。
人々が市民的、政治的権利をもつことで、彼らは経済的、社会的権利を要求する力をつけることができる。またその逆も成り立つ。
経済的、社会的権利を保障されていなければ、貧しい人々、とりわけ貧しい女性は往々にして、教育や自分たちの権利と選択肢についての認識を剥奪される。差別と虐待は、知識と救済の手がない場合に象徴的に現れる。

UNDP人間開発報告書〈2000〉人権と人間開発』国連開発計画(UNDP)
概要
http://www.undp.or.jp/hdr/pdf/hdr_pdf/hdr2000.pdf

国連開発計画(UNDP) http://www.undp.or.jp/

他の人権宣言
・世界人権宣言 http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/udhr/
ミレニアム開発目標 http://www.mofa.go.jp/Mofaj/gaiko/oda/doukou/mdgs.html
・地球憲章 http://www.earthcharter.jp/

自由主義と正義の限界マイケル・サンデル http://www.arsvi.com/b1990/9800sm.htm
・二重の記憶:EUのグランドデザイン id:hizzz:20090103#p4
アイデンティティの袋小路id:hizzz:20061005