顔のみえない談合型協調

あうんの呼吸、上位者の意向を慮る暗黙の忖度関係というのはもう何べんもネタにしている事柄であるが、現在でも明確な言及がなされないと気がつかない者は、空気読めない奴=KYとしておみそ扱いされる。上下のこうした忖度関係は実は、両者にとってとても都合がよいからこそ、続いてきた。
上位者にとっては「よきにはからえ」で、それが悪しきこととなった場合は、明確で具体的指示を自分は出した訳ではない、それは部下が勝手に暴走したことだという余地がある。対する部下は、すごく不利なのかといえば、実はその明確で具体的ではない指示だからこそ自己的な目的をそこに盛り込ませることが出来得る。そしてそれも含めて「上位の意向」ということにして、かくして主体者が曖昧模糊としたまま、物事が始動しだす*1。「越後屋*2、おぬしも悪よのう…」「そういうお大臣様こそ…」という奴。
しかしこの上下2者関係だけでは、事が崩壊した後は不利になる。そこで下は集合連帯を組んでしまえば越後屋などという固有名詞が浮かび上がらずにすむ。下はみんなとか仲間とかな集団の匿名性に埋没し、上は定期的ローテーションで組織交代して上の責務をかぎりなく薄くする。その構造の中に従っているかぎり、儲けすぎす不利にならずで「平等」なのである。ただし、「抜けがけ」は絶対に許さない。かくして主体不明なシステムだけ=慣習が回りだす。官僚機構を始めとして、こゆのが今も実に多い。「進め一億火の球だ」と「一億総懺悔」*3がまったく同じ考えから発しているのは、この構造が戦前戦後でなんらゆるがなかったからと見てよいのではないか。

*1:幣原政権下、南次郎陸相の基で1930年「満蒙問題解決方策大綱」という武力行使指針が出たのであるが、この大綱を練り上げた委員会メンバーは、いずれも省の課長級将校クラス。このメンバー時、東条英機参謀本部編成課長。

*2:実際に戦争拡大派に結託した中には、この機に乗じて臨時軍事費を獲得し「産業5ヵ年計画」(統制経済による軍需産業を軸とした重化学工業計画)を推進しようという者がいた。>http://en.scientificcommons.org/1944108

*3:日本の総人口が初めて1億人を突破したのは1967年のことで、産めよ増やせよな戦時中は7千万人ちょいといったところ。>http://www.stat.go.jp/data/nihon/g0302.htm