靖国参拝続行で冷え切った外交、小泉政権

「新しい歴史教科書をつくる会」主導で編修された中学歴史教科書『新しい歴史教科書』扶桑社が検定公開され、議論の的となり、また「教科書問題」が外交問題化する。2001年2月28日韓国外交通商相は駐韓大使を呼び、現在検定中の中学歴史教科書の一部に植民地支配に肯定的な表記があるとされる問題について「両国関係に悪影響を及ぼす」と述べ、遺憾の意を伝えた。3月30日中国は駐中大使に、扶桑社版歴史教科書の誤り是正を申し入れ。4月3日検定合格。5月8日韓国政府は35項目の修正を要求、17日中国政府は8項目の修正要求を出すなどして、アジア諸国が一斉に批判し、「歴史教科書問題」が再燃した。7月には韓国がこの問題への対抗措置として日本文化を開放停止とした。
・中学社会[改訂版]新しい歴史教科書(平成18〜21年度 使用版)
http://www.tsukurukai.com/05_rekisi_text/rekisi_kaitei.html

小泉純一郎首相は、2001年自民党総裁選で「首相に就任したら8月15日にいかなる批判があろうとも必ず参拝する」と公言し、当選後の衆議院本会議で戦没者にお参りすることが宗教的活動と言われればそれまでだが、靖国神社に参拝することが憲法違反だとは思わない」「心をこめて敬意と感謝の誠をささげたい。そういう思いを込めて、個人として靖国神社に参拝するつもりだ」と明言した。が、福田康夫官房長官らの進言で13日公式参拝

小泉内閣総理大臣の談話[靖国神社参拝] 小泉純一郎 2001年8月13日
わが国は明後八月十五日に、五十六回目の終戦記念日を迎えます。二十一世紀の初頭にあって先の大戦を回顧するとき、私は、粛然たる思いがこみ上げるのを抑えることができません。この大戦で、日本は、わが国民を含め世界の多くの人々に対して、大きな惨禍をもたらしました。とりわけ、アジア近隣諸国に対しては、過去の一時期、誤った国策にもとづく植民地支配と侵略を行い、計り知れぬ惨害と苦痛を強いたのです。それはいまだに、この地の多くの人々の間に、癒しがたい傷痕となって残っています。
終戦記念日が近づくにつれて、内外で私の靖国参拝是非論が声高に交わされるようになりました。その中で、国内からのみならず、国外からも、参拝自体の中止を求める声がありました。このような状況の下、終戦記念日における私の靖国参拝が、私の意図とは異なり、国内外の人々に対し、戦争を排し平和を重んずるというわが国の基本的考え方に疑念を抱かせかねないということであるならば、それは決して私の望むところではありません。私はこのような国内外の状況を真摯に受け止め、この際、私自らの決断として、同日の参拝は差し控え、日を選んで参拝を果たしたいと思っています。
http://www.ioc.u-tokyo.ac.jp/~worldjpn/documents/texts/exdpm/20010813.S1J.html

全国戦没者追悼式では「我が国がアジア諸国に多大の損害と苦痛を与えた」と式辞。翌2002年は春季例大祭にあわせて参拝するなどして、終戦記念日以外の期日を選んで5年間公式参拝し続けた。
10月6日訪中した首相は、盧溝橋などを訪問したその場で、中国に対する「侵略」を謝罪した。

中国人民抗日戦争記念館訪問後の小泉総理の発言(記録) 小泉純一郎 2001年10月8日
今日こうしてこの記念館も拝見させていただきまして、改めて戦争の悲惨さを痛感しました。侵略によって犠牲になった中国の人々に対し心からのお詫びと哀悼の気持ちをもって、いろいろな展示を見させていただきました。二度と戦争を起こしてはならないと、そういうことが戦争の惨禍によって倒れていった人の気持ちに応えることではないか、私共もそういう気持ちでこの日中関係を日中だけの友好平和のためではなく、アジアの平和、また世界の平和のためにも日中関係は大変大事な二国間関係だと思っています。
過去の歴史をよく勉強することによって、人間というのは反省し、将来その反省を生かしていかなければならないと思っています。私共も過去の歴史を直視し、二度と戦争を起こしてはいけない、その反省から、戦後平和国家として日本は繁栄することができました。過去、日本は国際社会から孤立して、あの悲惨な戦争に突入してしまいました。戦後、国際協調こそが平和と繁栄の道だと、国際社会から孤立してはならないということが日本の国是となっています。
日本はアメリカと戦争をしました。しかし、戦争をしたアメリカとは今、世界で最も強力な友好同盟関係を結んでおります。日本と中国も過去不幸な時期がございましたけれども、今後21世紀の将来に向かって、私は日本と中国との友好関係を今の日本とアメリカの友好関係のような強力な友好関係にしていけたらなと、そう心から思っております。
http://www.ioc.u-tokyo.ac.jp/~worldjpn/documents/texts/JH/20011008.S1J.html

10月12日韓国国会に「日帝下強制動員被害真相究明に関する特別法」が提出され、2004年2月13日可決した。
10月15日訪韓した首相は、植民地時代に独立運動家らを投獄した刑務所跡地など訪問。金大中大統領との首脳会議で「反省」「おわび」と、日韓歴史教科書共同研究で合意した。

西大門(ソデムン)独立公園における発言 小泉純一郎 2001年10月15日
日本の植民地支配によって韓国の国民に対して多大な損害と苦痛を与えたことに対しまして、心からの反省とまたお詫びの気持ちをもって、いま、色々な展示や施設や拷問のあとを見させて頂きまして、これは総理大臣としてというよりもむしろ、一人の政治家として、一人の人間として、このような苦痛と犠牲を強いられた方々の無念の気持ち、これを忘れてはいけないなと思いました。
これまでは、韓国も外国の侵略、そして祖国の分断、しかも同胞との戦いという大変辛い思いをし、苦労もされ、しかもそのような大きな、想像を絶するような苦しみに堪えて、今や民主主義社会として力強く発展していることに対しまして、心から敬意を表したいと思います。
日韓関係を見ますと、こういう過去の歴史を踏まえながら、これから互いに、反省しつつこのような二度と苦難の歴史を歩まないよう協力して行かなければならないということを痛感しております。
ちょうど21世紀の初頭、20世紀の色々不幸な歴史がありましたけれども、その歴史を直視しつつも、新しい未来に向かって、お互い協力できる分野、明るい展望をもって提携していける分野にこのように力を注いで、日韓の友好がアジアの発展に、そして世界の安定に寄与できるようなお互いの良い友好協力関係ができればなと現在思っております。
http://www.mofa.go.jp/mofaj/kaidan/s_koi/korea0110/sankou1.html
・日韓首脳会談(概要) 2001年10月16日
http://www.mofa.go.jp/mofaj/kaidan/s_koi/korea0110/kaidan.html

これを受けて2002年3月、両国の歴史学者約20人からなる「日韓歴史共同研究委員会」が発足し、「『日韓歴史共同研究推進計画』合同支援委員会」が支援組織として新設した。この成果を教科書編纂にあたって研究の結果を活用することで両国政府は合意した。
歴史教育アジアネットワークJAPAN
http://www.jca.apc.org/asia-net/index.shtml
・外務省:日本の教科書検定制度
http://www.mofa.go.jp/Mofaj/area/taisen/kentei.html
文科省:教科書制度の概要
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/kyoukasho/gaiyou/04060901.htm

2002年4月江沢民国家主席は訪中した神崎武法公明党代表に、「これは国家と国家、歴史と歴史の問題だ」「小泉首相はこの問題を簡単に思ってはいけない。私は小泉首相靖国参拝を絶対に許すことはできない」と強く批判、中国外務省は「いかなる形式、時期であれ、日本の指導者がA級戦犯が祭られた靖国神社に参拝することには反対する」と発表。また在中国大使を呼び、「南京虐殺」などにも触れて「悪い影響を及ぼすことがないよう、同様なことが起こることのないよう措置してほしい」と強く抗議。さらに対抗措置として、防衛庁長官の中国訪問と中国海軍艦艇の日本訪問の中止を通告。中国外務省の孔泉報道局長は「小泉首相靖国神社参拝は中国人民の感情を傷つけ日中関係を損なった。」とコメント。以降、日中関係は冷え切ったままとなる。
南京事件FAQ http://wiki.livedoor.jp/nankingfaq/d/FrontPage

2005年4月王毅駐日中国大使は、中曽根内閣当時以来日中両政府間には靖国神社参拝に関する「紳士協定」が存在しており、首相・外相・官房長官は参拝すべきではないと、自民党の外交調査会講演で発言した。しかし外務省は協定存在を否定した。11月唐家セン前外相は、訪中した大阪府京都市兵庫県の各知事との会談で、「紳士協定」を日中両政府間で結んでいたと発言。
2002年9月17日平壌を電撃訪問した小泉首相は、朝鮮民主主義人民共和国国防委員長金正日(朝鮮労働党総書記)と首脳会談を行い、金総書記は拉致事実を認め口頭謝罪し『朝平壌宣言』を調印した。

日朝平壌宣言 2002年9月17日
日本側は、過去の植民地支配によって、朝鮮の人々に多大の損害と苦痛を与えたという歴史の事実を謙虚に受け止め、痛切な反省と心からのお詫びの気持ちを表明した。
http://www.kantei.go.jp/jp/koizumispeech/2002/09/17sengen.html

同時に5人の拉致被害者が日本に一時帰国した(後に永住帰国に変更:この曖昧な過程が、のちの禍根となる)。これにより日朝国交正常化への話し合いの道が開け、「核問題」と共に、長らく停滞していた「拉致問題」も包括的に協議する運びとなった。2004年5月22日再び平壌訪問した首相は、先の帰国者の家族の帰国を実現させた。が、残りの拉致認定者については、死亡などととして「拉致問題は解決済み」との立場を北朝鮮政府は取り続け、日朝関係は膠着化していく。
2005年8月15日戦後60年終戦記念日に当たり小泉純一郎首相は談話を発表した。

戦後60年にあたっての小泉総理大臣談話 小泉純一郎 2005年8月15日
我が国は、かつて植民地支配と侵略によって、多くの国々、とりわけアジア諸国の人々に対して多大の損害と苦痛を与えました。こうした歴史の事実を謙虚に受け止め、改めて痛切な反省と心からのお詫びの気持ちを表明するとともに、先の大戦における内外のすべての犠牲者に謹んで哀悼の意を表します。悲惨な戦争の教訓を風化させず、二度と戦火を交えることなく世界の平和と繁栄に貢献していく決意です。
過去を直視して、歴史を正しく認識し、アジア諸国との相互理解と信頼に基づいた未来志向の協力関係を構築していきたいと考えています。
http://www.ioc.u-tokyo.ac.jp/~worldjpn/documents/texts/JH/20050815.S1J.html

韓国政府は「日本政府は終戦60周年の歴史的な意味を深く刻み、過去に対する真の反省と実践的努力を通じ、両国間に合意された21世紀の未来志向的友好協力関係構築にまい進すべき」との論評を出した。外交通商部は「日本政府のこうした公式的な謝罪と反省にもかかわらず、政治指導者の一部は真に過去を反省しているのか疑わざるをえない言動を続け、日本の植民地侵略の犠牲を受けた周辺国の国民に大きな傷と憤怒を抱かせてきた」「わが政府は正しい歴史認識確立が韓日関係の根幹という立場の下、過去の日本の指導者らが数度にわたり行った謝罪と反省が、隣国の政府と国民から真実のものと受け止められるよう日本政府が自ら努力を強化すべきとの点を強調してきた」と論評。
台湾外交部(外務省)スポークスマンは「日本は過去の歴史を正しく見てほしい」と批判。香港の中国語紙明報は「小泉首相は、アジアの隣国の反対を無視し、A級戦犯が祀られている靖国神社に参拝した」と指摘。2005年リー・シェンロン首相は「同神社には(第2次大戦の)戦争犯罪人が祭られており、シンガポールを含む多くの国の人々に不幸な記憶を呼び起こす。戦犯をあがめる対象にすべきではない」と発言した。2006年シンガポール外務省は、「小泉首相靖国神社参拝を遺憾に思う。シンガポール政府は靖国問題に関する立場を繰り返し表明してきたが、それに変化はない」「東アジア域内で緊密な連携関係を築くという大局的な共通利益に助けとはならない」と批判。シンガポールで最大の華字紙・聯合早報では「靖国神社は日本のかつての軍国主義の象徴といわれており、彼の行動は、日本の隣国を怒らせるに違いない。靖国神社は、すでに、日本の右翼勢力の精神的支柱と集会の場となっている」と論評。マレーシアのマハティール前首相は「首相の靖国神社参拝は、中国だけでなく、韓国も怒らせてしまう。日本が行ういくつかの行為は、日米同盟を継続するのに役立っているのだろうが、米国の支援者である韓国を敵に回すことになってしまう」、「首相である限り、自分を公的な自分と個人である自分を分けることはできない」と批判した。華人団体の代表者は「マレーシア人は日本による占領下で苦難を強いられた。」と強調。タイの英字紙バンコク・ポストは「第2次世界大戦期間中、日本はアジアの国々に野蛮な罪の行為を犯したが、靖国神社A級戦犯の位牌を祀っている。小泉首相は2001年4月就任して以来、既に靖国神社を5回参拝した。この行為は日本の中国と韓国及び東南アジア諸国との関係に大きな影響をもたらし、日本軍国主義者の暴行を受けた被害国の人々の感情を傷つけた」と批判。ベトナムハノイ紙アンニン・トゥドーも「東アジアに荒波」の見出しで報道された。ヘンリー・ハイド米下院外交委員長が駐米大使に送った書簡では「靖国神社は、太平洋戦争での(日本の)軍国主義的な立場の象徴」と指摘し、「日本政府関係者らが靖国神社参拝を続けていることを遺憾に思う」と表明。
また小泉参拝と麻生太郎外務大臣などの問題発言を絡めて、シンガポール ゴー・チョクトン上級相は、2006年2月6日 アジア太平洋円卓会議で基調講演にて「日本の指導者たちは(靖国)参拝を断念し、戦犯以外の戦死者を悼む別の方法を考えるべきだ」「この件に関して、日本は外交的に孤立している。アジア諸国だけでなく、米国でさえ日本の側に立つことはできない」と発言した。仏ル・モンド紙は「(小泉首相による参拝は)私人の資格であっても、国際法廷で裁かれた人物を国家がたたえ、軍国主義の過去を免罪しているように見える」戦前の「超国家主義イデオロギー的支柱」であった同神社は現在も「政治的なメッセージを伝えている」と指摘した。米ニューヨーク・タイムズ紙は「日本の無礼な外務大臣」と題する社説で「麻生大臣の外交センスは彼の歴史認識と同様におかしい」と酷評した。英フィナンシャル・タイムズ紙は「(靖国神社遊就館が)日本兵が栄誉に満ちた解放者や犠牲者であり、侵略者ではないとする、桜の花のように美化された歴史観を訪問者に示している」遊就館の展示については「南京大虐殺を解放として展示し、日本の化学兵器使用や人体実験、韓国人の性的奴隷(従軍慰安婦)は省かれている。パールハーバー爆撃は…連合国の封鎖で強いられたとしている」と述べ、こうした歴史観に、中国や韓国だけでなく米国の政府当局者も「不快感を感じている」と指摘した。

2005年5月2日オランダ訪問した首相は、バルケネンデ首相と首脳会談した。

日蘭首脳会談 小泉純一郎 2005年5月2日
(第2次世界大戦中のオランダ人捕虜への虐待事件を踏まえ、)多くの国々の人々に多大な損害、苦痛を与えた事実を謙虚に受け止め、これまでも深い反省と心からのおわびの気持ちを表明してきた。

2006年8月15日、小泉首相は中曽根以来21年ぶりに、終戦記念日靖国神社公式参拝を行った。
これにはアジアのみならず、ポーランドのゲレメク元外相、ドイツのシュミット元首相、オーストラリアのダウナー外相、イギリスのコータッツイ元駐日英大使などが「歴史認識」に懸念を表明し、新聞では米:ワシントン・ポストニューヨーク・タイムズ、USAトゥデー、ロサンゼルス・タイムズ、クリスチャン・サイエンス・モニター、英:インディペンデント、フィナンシャル・タイムズ、ガーディアン、仏:フィガロル・モンドリベラシオンなどから軒並み批判された。
・世界は靖国をどう見ているか
http://www.geocities.jp/social792/yasukuni/sekai.html
小泉首相靖国参拝に関する主な発言集
http://www.cc.matsuyama-u.ac.jp/~tamura/koizumiyasukuni.htm