終身雇用の幻想

国が行っている労働力調査によりますと、パートや派遣など正社員ではない非正規雇用の労働者の数は去年、前の年より55万人増えて1730万人余りに上って過去最高になり、働く人全体の3分の1を超えています。
政府の社会保障国民会議ではこうした現状を懸念して、非正規雇用の労働者が抱える問題への対策を早急に講じるべきだという意見が相次いでおり、福田総理大臣も、こうした労働者について「就職するだけでなく職場に定着するよう、学校や地域、産業界すべてが一体となって取り組まなければならない」と述べ、対策の検討を要請しました。
これを受けて国民会議は、来月取りまとめる中間報告では、社会保険の適用対象を拡大し、非正規雇用の労働者のセーフティーネットを充実させることや、正社員になるための能力発を行うことなど、待遇の改善策を柱の1つにする方針です。

正規雇用:待遇改善を柱に、社会保険の適用対象を拡大など…社会保障国民会議
http://www3.nhk.or.jp/news/t10014394071000.html

id:hizzz:20080427#p3で、労働者保障といえばとかく社保(健康保険&年金))ばかりクローズアップされて、雇用保険がおいてけぼり…どころがとば口がきつくなっているのに失業貧困だといってる割に無風状態なのは解せんとこ迄は、書いた。
実は「失業貧困」よりも「ワーキングプア=非正規雇用貧困」→「間接雇用=派遣」対策に皆の目がいってるからに他ならない。しかし生存緊急度、いわゆる弱者度からいけば、生活保護>失業者保障>パート保障>派遣保障>正社員保障という階層ではないだろうか。それが、どうして昨今の「派遣叩き」になるかといえば、派遣会社という括り易い纏まりであるからに他ならないだろう。だからこそ、叩き易い=御しやすいということでもある。
朝生でも発言していた渡邉正裕「正社員の既得権を改革せずして若年層の貧困問題の解決はありえない」というが、彼の挙げている例はいずれも一握りの大企業の例であって、大企業に入社出来たこれまた一握りの有名大学のエリート正社員の待遇改善にしかならないモデルケースが、労働者の大多数を占める中小企業にあてはまる程、労使環境は均一単純なものではないであろう。大企業は余禄あるからこそ「パフォーマンスの低い貰いすぎ中高年」を窓際族としてかかえこめているのである。渡辺のいう正社員既得権改革とは、解雇権行使というところからソフトランディングして結局一度ぽしゃったホワイトカラー・エグゼンプションを呼び起こすことにほかならないのではないだろうか。>id:hizzz:20060522#p3
今日、ここまで労働者が追いやられてしまったのは、日本独特のワーキングスタイル=終身雇用サラリーマンと企業内労働組合の関係を抜きにしては語れない。労働者は失職と同時に組合員外となるのである。組合&政府共々終身雇用を常態と考えるしくみだからこそ、雇用保険(失業給付)は顧みられず、そこがエアポケットになる。
組合的立場からすれば、終身雇用にもどせということであろうが、では実際問題、22歳〜60歳までの38年間に渡り寿命を保ち続けている会社は、一体どれくらいあるというのであろうか?いや、高齢社会を考えると60歳でリタイヤ出来る人はもっと少なくなって、50年近く働くかたちになるであろう。
しかし、優良企業30年*1、中小企業10〜15年、個人事業者は3〜5年が会社の寿命と言われてる(会社設立後1年未満で廃業する割合は4割)。30年以上続く確率は1000社に1社、10年以内に倒産する割合は9割とも言われてるそんな中、いくら企業内労働組合ががんばったところで、肝心の会社が存続してないのでは意味がない。終身雇用の恩恵があるのは、一握りの上位優良企業にいる労働者だけなのである。優良企業30年説というのはなにも最近の話ではなく、日経が80年代に出した試算で広く知られているものなのである。
終身雇用一本槍から労働形態が多様化したことは、ライフスタイルの多様化とも合わせて職業機会や会社特異体質に風穴をあける=流動普遍化という観点からみれば悪いことではない。それが直ちに不安定身分→貧困になってしまったのは、政府も労働組合も全て短寿命な企業に旧態依然としたおんぶにだっこ社会保障政策を続けてきたこと、従来の男女格差を職務労働形態の違い(総合職・一般職、正社員・派遣パート)で隠ぺいしてしまったことと、政府は多様なセイフティネットを拡充してこなかったことこそが、今日の不安定雇用による貧困の最大原因ではないのだろうか。企業に頼ることこそが、親ガメこけたら皆こけたな一番の不安定要因なのである。
社会保障国民会議 首相官邸
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/syakaihosyoukokuminkaigi/index.html
「歯止めかからぬ事業所の減少」 独)中小企業基盤整備機構
http://www.smrj.go.jp/kikou/info/bizinfoplaza/sinko/h19/031866.html
我が国経済のダイナミズム喪失の懸念 経済産業省
http://www.meti.go.jp/hakusho/chusyo/H08/02-04-02.html

ひきこもりの高齢化

都は昨年7月、ひきこもり専用の電話相談窓口を設置。今年3月までに本人や家族から寄せられた相談件数は延べ1190件で、このうち性別や居住地を申告して相談窓口の利用登録を行った対象者773人のうち、40代以上が17%、30代が29%、20代が34%、10代が12%(不明8%)だった。内容は「職場不適応」などが目立つという。
都は4月から不登校経験者や高校中退者を中心に全国初となるひきこもりを予防するための戸別訪問を実施、独自の「ひきこもり相談マニュアル」を作成するが、40代以上については「若年者層と同一にとらえることは不可能。今のところ対策は考えていないし、考えようがない」(同対策本部)と戸惑っている。
実態調査をまとめた明星大人文学部の高塚雄介教授は「若年者層のひきこもりは心理的葛藤(かつとう)が主な理由だが、40代以上は精神疾患の可能性があり、全く別物。年長者のひきこもりは昔からあり、かつては山にこもるなどしていたが、現代では家庭にこもるしかないのでは」と指摘している。

“高齢化”するひきこもり 40代以上も 都への相談で判明
http://sankei.jp.msn.com/life/trend/080505/trd0805052309015-n1.htm

どうにもこうにもへんな帰結になってる記事。
フリーターが高齢化すれば、ネットカフェ難民が高齢化し、当然ひきこもりも高齢化してるだろう。そしてひきこもり状態が長期化すれば、そりゃあ同調をもって良しとする社会とは当然ズレてしまい、たとえ一念発起して社会に出ても中高齢者にダイハードな現場では「職場不適応」となる確率が高いのではないだろうか。
それとは別に、年功序列制度で40代ともなればなにがしかの役職に自動的になって、管理職向きではない者が「パフォーマンスの低い貰いすぎ中高年」とみなされたり、鬱病などを患いたりして出社できなくなるという場合が「40代以上は精神疾患の可能性があり、全く別物」なんであろう。
ということで、従来の中高年鬱層に若年鬱の高齢化層が増えたということなのではないだろうか。しかし「今のところ対策は考えてないし、考えようがない」ってどーいう無責任ぶりなんであろうか。>都対策本部 <ヲヒこら!こもる家庭さえ喪失してる中高年は、「山ごもり」せいというのかいな。
昔かいたんだがid:hizzz:20030604#p2、会社か家庭かしかセイフティネットがないのが問題。ワタクシが経験している範囲でも、特に精神疾患は周囲人間関係環境によって悪化してしまう。バーストしている者を落ち着かせる為にも、ループする慣性環境から離す必要があるのだ。
とまれ平均余命90年になろうとする長い人生の途中には、思いもかけぬ色々なことが起こる。ディーセントワークと多様なライフスタイル実現の為には、多様重層的なセイフティネットが必要なんである。

外国人研修生及び技能実習生に首を挿げ替える人員コスト政策

id:hizzz:20070610でかいた通り、コムスン偽造で広く明らかになった介護制度の破綻は、介護士ばなれを引き起こした。夜勤等があって肉体的にハードワークなのに賃金upもないのなら、そりゃあちょっと出だしから考えちゃうのは当たり前だよな。介護職員の賃金水準は男性で一般労働者の約6割の月額22万7000円程度。

介護福祉士は、高齢者や障害者の介護を行う国家資格で、全国で約64万人いる。介護保険の導入に伴って各大学が介護福祉士の養成課程を開設し、国の指定養成施設の大学は全国で約150校にのぼる。調査は4年制・短期大学計80校を対象とし、うち51校が回答。51校の同課程入学者は2005年春の3273人をピークに3年連続で減少し、今春は05年より30%少ない2266人。42校で定員割れが生じ、25校で定員充足率が50%以下となった。
各大学は定員割れの理由について、「社会的地位が低い」「コムスン問題で業界イメージが悪化した」とし、奨学金を受けた学生が「介護職の賃金では返還できない」という理由で一般企業に就職した大学もあった。日本福祉大(愛知県)の担当者は「高校の進路指導の選択肢から介護福祉士が除かれつつある」と嘆く。

介護福祉士養成大、8割で定員割れ…低賃金などで敬遠 読売新聞
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20080504-OYT1T00014.htm

大体その低賃金は生活扶養されてる主婦労働を当てにした上での卓上計算だったから、世帯主賃金としてはまったくもって不足していたのも明白、なのに介護基準料は引き下げられる矛盾。
崇高な福祉精神でこの世界に飛び込んでも、そうした分だけ燃え尽きて辞めていく人も多いという。でー、そのあてにされた肝心の主婦は昼間の空いている時間しか働かず、中高年には肉体労働は厳しくもあり、24時間介護が必要な深夜等に人を割けなくなってきた。で、厚労省は制度の抜本的見直しをほかして、先のフィリピン人が比国議会での承認手続き遅れで滞っている為、今度はインドネシア人の看護師&介護/介護福祉師投入でなんとかしようとする。

団体側「離職率20%改善が先」/厚労省「人手不足対策でない」
急激な高齢化で人手不足が懸念される看護や介護の分野に、インドネシア人が入ってくる見通しになった。同国との経済連携協定(EPA)が今国会で承認されるのが確実になったためだ。専門的・技術的分野以外で、日本が外国人労働者に本格的に門戸を開放するのは初めて。7月にも第1陣が来日するが、看護師、介護福祉士の団体は、国内の労働環境の整備が先決だと反対している。
厚労省によると、資格がありながら働いていない潜在看護師が約55万人、潜在介護福祉士が約20万人いる。厚労省はこうした人材の活用などで人手不足に対応することを考えており、外国人労働者に頼ることは想定していないという。国内の労働市場への悪影響を懸念し、受け入れは2年間で1000人(看護師400人、介護福祉士600人)と抑えている。

インドネシア人受け入れ 介護現場と政府ズレ
http://mainichi.jp/life/health/news/20080420ddm003040042000c.html

38.6万人もの入所待機者が列をなしている東京都特別養護老人ホームでも、介護員不足から定員を一時減らして運営を続ける事態となってしまっているという。
一方、インドネシア側では「稼ぎ10倍」と希望者続々なのだそうだ。前回「(登録型)日雇い派遣禁止」で限りなくバイト的給与な正社員か、専門子会社からの出向扱いの契約社員か、社会保険適用に達しない短期バイトが増えるだけだろうと書いたが、低賃金労働市場はそれらと外国人労働者のパイの奪い合いになるのであろう。
人手不足なのに下がる時給…派遣・請負募集時時給調査
http://koerarenaikabe.livedoor.biz/archives/51187580.html
さてさて、将来の少子高齢化を睨んで、自民党は外国人研修・技能実習制度という技能資格者短期労働滞在からいよいよ門戸を広げようとインフラを画策している。

自民党は外国人の定住を推し進めるための基本法制定の検討に入った。日本で一定期間働く外国人の受け入れや管理政策を担う「移民庁」を設置するほか、不当な低賃金労働などが問題となっている外国人研修・技能実習制度を抜本的に見直す。少子高齢化による人口減少の流れを踏まえ、海外からの人材確保体制を強化する。来年の次期通常国会への提出・成立を目指す。

自民党、「移民庁」設置検討…外国人定住・強化を目標に
http://www.nikkei.co.jp/news/main/20080505AT3S0201E04052008.html

外国人研修・技能実習制度 法務省入国管理局
http://www.immi-moj.go.jp/seisaku/kensyu.html
研修生及び技能実習生の入国・在留管理に関する指針 法務省
http://www.moj.go.jp/PRESS/071226-1.html
財団法人国際研修協力機構(JITCO)
http://www.jitco.or.jp/

雇用保険の国庫負担廃止、キターーーーーーーーー

財務省は8日、雇用保険制度の財源の一定割合をまかなっている国庫負担を2009年度から廃止する検討に入った。社会保障費の伸びを毎年2200億円圧縮する政府計画に組み入れる狙いだ。雇用保険の積立金残高が5兆円近くに達し、国の負担なしでも給付に影響はないと判断した。同省は介護保険についても、利用者の自己負担率上げに向けて厚生労働省と調整する構えで、社会保障費抑制を巡る攻防が強まる。
国庫負担の廃止は、財政制度等審議会財務相の諮問機関)が6月の建議に盛り込む。

財務省雇用保険の国庫負担廃止を検討・社会保障費抑制狙う
http://www.nikkei.co.jp/news/keizai/20080509AT3S0802208052008.html

きたよ、きたきたきましたよ。
一番上の「社会保険の適用対象を拡大」とゆーのは、とどのつまり減った正社員分の徴収源確保の為に広く短期を含めた非正規雇用を捉えようとしているのに加えて、雇用保険=失業保険はあくまでも「イリーガル」なものとして各自、自助努力せい、国庫はめんどみきれん、と。
去年短期雇用者の失業給付基準が、度々失業給付を得ているケースがあるとして、半年から1年継続雇用に上がってしまったが、長期契約がとれない短期労働者程、そうしたセイフティネットが必要な現状がある。度々失業を繰り返すハメに至っている者に対しても「とにかくなんでもいいから職につけ」とせかす現在のハローワークの通りいっぺんの運営こそが、短期雇用の失業ループを生んでいるという側面がありはしないだろうか。
で、「非正規雇用の労働者のセーフティーネット充実」の名目のもとに徴収は厳しくなれど、肝心の保障=給付基準のハードルは、高くなる一方。それが「社会保障費の伸びを毎年2200億円圧縮する政府計画」。